いかに事前に計画を立て訓練をしようと、戦闘は状況に支配される出来事である。軍隊の構成も軍事力の行使も指揮官が決定するので、指揮することは軍事力を行使するうえで非常に重要な要素になる。指揮官の戦争に対する適性、性格、士気、勝利しようとする意志は、その意志と指揮努力を勝利に向けて集中し勝利に結びつける非常に重要な要素である。司令官たる指揮官の次の務めは、相容れない責務が発生するたびにどちらを優先するか判断することだ。計画立案はすべて妥協の産物である。戦争における状況は、こちらの努力を無効にしようと全力を尽くしている敵も含んでいる。そして、指揮官は自分が率いている軍隊について充分に理解しなければならない。指揮官は兵站―補給物資の保管と移動を効率よく行う技術である―に通じてなければならない。何よりも大事なことは、指揮官は隷下部隊における士気の根源だということである。

ナポレオン戦争は、何世紀もの間の形式の最後の戦争であった。武器、輸送、通信手段という戦争の基本的な三要素の変化は19世紀の軍事力の行使方法を実質的に変えた。蒸気機関の発明と船舶、車両への応用は輸送手段の真の革命であった。これは、根本的に戦争の戦い方そのものを根本的に変えていたのである。革新の二番手に挙げるべきことは蒸気管の陸上輸送への応用である。鉄道網は戦争の戦い方を根底から変えた。時間と距離は戦争計画を立案するうえでの考慮すべき要素のなかで得に重要なものだが、これが遥かに短くなった。輸送上のこうした新機軸には電信という発明が伴っていた。ボーア戦争は新しい時代の一例である。鉄道により兵士を大量輸送できるようになったが、戦闘の様相を一変させたのは大量生産された新形態の兵器だった。

国家間戦争に関する重要な点であり今日にも関連する数少ないことの一つは、産業・工業それ自身の核心に触れるものである。国家間戦争においては、国家の組織・富としての経済は同じように互いに戦っている。国家間戦争の産業・工業とのあいだには真に共生関係がある。1861年に勃発した南北戦争は新しい動きを結合した最初の大がかりな紛争で、新しいパラダイムで戦われた最初の紛争であった。この南北戦争は戦争に大きな影響を与えた。というのも、それが戦場の外における軍事力の新しい使い方とその効用をまざまざと見せつけたからである。また、南北戦争はアメリカの戦争の戦い方をも確立した。産業力・工業力が戦争で全体を見ればその勝敗を決定するとう明確な理解が米国流のお戦争に埋め込まれた。

「戦いと芸術に原則はない。このどちらにおいても、才能が規範に取って代わられる子とはない」という格言がある。モルトケは優秀な参謀将校に必要な特質―勤勉、骨身を惜しまない、厳格―を全て備えることを重視した。最高司令官によって指揮されるように行動することをモルトケは狙ったのである。この目的を達成するには二つのやり方がある。ひとつは、参謀が指揮官の指示を実行に移すものである。もう一つのやり方は指揮官を決定に導くためにいくつかの選択肢を提案する、というものだ。モルトケは、第一のやり方、形式ばらない組織の方向へ向かった。すなわち、参謀将校は作戦行動を実施し、戦術的統一性を確実にする役目をもつものと考えていた。

普墺戦争が終わる頃には国家間戦争というパラダイムは完成していた。