第1部国家間戦争

第1章発端

戦争全般に関する我々の理解は国家間戦争というパラダイムに基づいている。これは19世紀後半のことである。ナポレオン戦争はパラダイムの起点である。歴史を学ぶことで、自分と自分の敵がどうして今のような状態になったかがわかる。

 テーマは軍事力の歴史である。軍事組織の構造から述べる。出発点は1790年代である。現代の陸海空軍の組織は全体的にナポレオンのつくった機構と組織の多くを今も引き継いでいる。機動性と作戦行動の柔軟性という流動的概念を大軍隊と重火器という概念に結合されたのが真骨頂であった。

市民軍の誕生から話を進めることとする。市民軍は大規模な軍隊と動員可能兵力への新しい概念を提供した。つまり、国民皆兵の概念である。ナポレオンは徴集という制度の兵力の定常的供給源としての巨大な可能性を認識した。1800年から14年のあいだに推定200万人が招集され戦った。これは人類史上過去にない兵力だったが、潜在的可能性を示すものであった。massという単語は、大規模な人員であるとともに、軍隊用語に敵に対する兵力の集結・集中という意味でも使われる。国家間戦争が普及していくにつれ、「mass」の二重性を理解することは、国家間戦争における軍隊の効用を理解することで核心である。ナポレオンは投入する兵士の数にしか関心をもっていなかったのではなく、大集団が意欲的でなければならないことも理解していた。

ナポレオン軍の勝利は戦争に対する考え方の変化の結果であった。革新的であったために勝利することができた。速度と柔軟性が作戦行動の根幹にあった。しかし、ナポレオンは自分の軍事行動を全体としてとらえて計画していたのが何よりも重要だ。つまり、立案、進軍、戦闘は全体としての軍事行動を構成する統合部品であった。だが、立案、進軍は交戦に先立ち行われる別個の独立した過程とするのが当時の一般的な慣行であった。こういった全般的なアプローチを現実的な条件下で実現させるには自分たちの意図を敵に悟られずに移動できるように編成する必要があった。筆者は「編成による機動性」と呼んでいる。これは、もう一つの重要な新機軸の導入により実現された。それは、軍団であった。軍団は単独で作戦行動をとることができ、会戦時にのみ合流した。また、ナポレオンの軍団は複数の経路にわかれて前進することで、全体としては迅速に移動できた。

ナポレオンの非凡なところは自分が創出した軍組織とこれを用いるべく工夫した方法とを融合させて自分の目的―敵兵力の決定的撃破―を達成したことにある。

軍隊の戦い方、すなわち、戦術や使うべき火力をその軍隊と混同しないようにすることは重要だ。戦術とは、指揮官によって決定された作戦行動の中で手順と訓練にしたがって戦場において敵の防御を弱め、また、敵を破壊するように火力を用いることである。戦術的交戦は戦闘の確信である。戦闘における戦術の優位がもつ価値を完全に理解するためには、隊形の横幅と縦の厚みおよび兵士たちの分散と集中を理解する必要がある。

戦争に関するクラウゼヴィッツの理論でとりあげる3つの概念がある。最も大事だとみなしているのは、国家、軍隊、国民という「注目すべき三位一体」という彼の見解である。そして、三者の関係を提言した。互いに対等に関連しており、勝利するにはこの関係はつり合いが保たれなければならない。三位一体は、政治的目的が最優先のものであるという基本的概念とつながっている。「戦争は他の手段をもってする政策の継続にすぎない(ママ)」という一節は2つの誤解を招いている。一つ目はある時点で駆け引きや外交のような政治的手段が停止し戦争が始まるというものだ。だが、政治的手段と戦争は並行して行われるというものだ。二つ目は、政治的目標と軍事的目標は同一であるというものだ。この二つは全面的に関連しているが、まったくの別物であることを強調している。大きな実際的価値を見出した3つ目の概念は、戦争は「力試し」と「意志の衝突」の産物であるという記述だ。

 

対ナポレオン戦争に参加した各国の軍隊の多くが以下に列挙するナポレオン軍の基本的な特質を見せた。

●徴兵された市民で構成され、科学技術により強化された巨大な軍隊の出現。

●戦略的目標としての敵主力部隊の撃滅。

●平時における大規模な予備の維持と、戦時における部隊の新編。

●統制と迅速な軌道を可能にする郡内の指揮階梯の区分。

●専門的能力と実力主義に基づく軍団や師団の指揮官の任命。

●戦争の基本原則の枠内での専門的訓練。

 

 ヨーロッパ各国で以下の特徴を備えた軍隊の発展をもたらした。

 ●徴兵制度

 ●動員

 ●専門的職業意識

 ●科学技術の発展